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大阪地方裁判所 昭和26年(行)6号 判決

原告 戸田兵右衛門

被告 大阪府知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十二年十二月二日附買収令書に基いてなした(1)吹田市字馬廻島四七〇一番の一土地九畝二十五歩(2)同所四七〇一番の二土地九畝二十五歩(3)同所四七一一番の二土地二畝二十九歩(4)同所四七一二番の二土地五畝二十四歩(5)同所四七〇六番の二土地十八歩に対する買収処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、

右各土地は原告が所有していたものであるが、訴外吹田市農地委員会は訴外森山好祐の申請に基き、右各土地を農地として自作農創設特別措置法第三条により買収計画を定め、被告は右計画に基いて昭和二十二年十二月二日原告に対し買収令書を交付してこれを買収した。しかしながら、右買収処分は左記事由により無効である。

(一)  前記(1)乃至(4)の土地は互に相接続して一団の土地を形成しているので、原告は昭和二年八月一日これを宅地に変更する目的で他から買い受け、昭和十五年七月十一日長男健次の名義で建築許可を受けて、右土地の北部の八十八坪一合九勺の部分に建坪合計五十一坪三合の住宅二棟を、又南部の百十四坪八合の部分に建坪合計六十坪五合の工場(建築物の名称は倉庫)二棟を同年十二月中に建築し、これを原告の長男健次及び親族戸田延一、高木徳太郎の三名に賃貸した。同人等は右工場で共同してマニラロープ製造を営み、右住宅には右工場の従業員等が居住していた。ところが右工場及び住宅は昭和十七年十一月二十七日火災のため全焼したので、原告は再建のため奔走したけれども、戦時下のため資材その他の関係で実現の見込がなかつたので一時これを中止して機会を待つていたが、ちようど食糧難打開のため休閑地利用が叫ばれていた際であつて、原告の使用人であつた訴外森山好祐が右土地を休閑地利用の意味で一時無償使用させて貰いたいとの申出をしたので、原告もこれを承諾したところ、同人は右土地の東北部に建坪約八坪位のバラツク住宅を又その南部に建坪約六坪の納家を無断で建築して、これに居住しながら、その後引続いて右焼跡の土地を耕作して現在に及んでいるものである。

右の如く右土地は住宅及び工場が建築せられていたものであり、その焼失後も原告はこれが再建を意図していて耕地に改変する意思がなかつたのであり、又訴外森山好祐は右土地の一部に住宅及び納屋を延築所有していて耕作は単に休閑地利用の一時的現象であつたのであるから、右土地は公簿上田若しくは畑として表示せられていても宅地としての本質を具備しているものというべく、これを農地であると即断することができないものである。しかるにこれを軽々に農地と断じてした本件買収は明白な違法による無効のものである。

(二)  又前記(5)の土地も原告が昭和二年八月一日他から買い受けたものであつて、その後引続き訴外植田愛太郎が無償で耕作使用しており、訴外森山好祐はこれを耕作していたものではないから、同人が買受の申込をすることは不相当であるのに、これを看過してした本件買収は無効である。

右の如く本件(1)乃至(5)の各土地に対する買収処分はいずれも違法無効であるから、これが取消を求めるため本訴請求に及ぶものであると陳述し、

被告の抗弁に対し、被告主張の如く原告は本件土地の買収計画に異議及び訴願をせず、本件買収令書を昭和二十二年十二月二日に交付された後右買収の対価を受領した事実は認める。しかしながら本訴は本件買収処分が無効であるとして、形式的に存在している処分の取消を求めるものであるから、出訴期間等の制限に服さなければならないものではない。又右の如き訴は行政庁も当事者適格があるから、被告主張の如く必ずしも国を相手とする必要がない。

と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として原告の訴は之を却下する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、本件買収令書は昭和二十三年六月十五日に吹田市吹田地区農地委員会から松山市吾吾島地区農地委員会宛に発送しているから原告はその後間もなく同委員会を通じて本件買収令書を受領している筈であり、原告はその後本件買収の対価を右委員会を通じて受領している位であるから、昭和二十六年二月十九日に提起せられた本訴は出訴期間を徒過している不適法なものであるから、却下せらるべきである。又原告が本訴に於て買収処分の無効確認を求めるというのであるならば、その実質は買収された農地の所有権の帰属を争うものであるから、買収による所有権の帰属主体である国を相手とすべきであつて、被告はかゝる訴について被告たるの適格がないから、本訴はこの点に於ても不適法として却下を免れないものであると述べ、

本案の答弁として主文同旨の判決を求め、原告主張の(1)乃至(4)の土地は元西尾市松が所有し水田として稲を自作していたが、原告がこれを昭和二年八月に買い受けてから二、三年間は耕作せずに荒地と化していたが原告方の使用人であつた訴外森山好祐が昭和五年頃から使用貸借によつて原告から借り受け耕作し、税金、水利費、農業会費等を負担して、原告に対しても度々野菜を提供していたが、その間約十数年毎年堆肥焼土等を入れて、耕作を初めた頃より一尺以上も地上しているのである。その後原告主張の如く同人は昭和九年五月右土地の一部に住居を建設し、又右土地の一部に工場等の建物が建築せられていた事実は認めるが、その当時も右建物の敷地以外は引続き同人が耕作しており、右工場等の建物が全焼した後は同人が再びその建物跡を開墾して耕作を継続しているものであつて、休閑地の一時的利用ではなく右土地は当時立派な畑となつていたものである。又原告は右工場建設以来税金だけは支払うようになつたが、工場再建の意思はなく、昭和二十二年に坪当り七十円で売却を同人に申込んだ位である。尚本件買収当時右土地の一部に同人が小屋を建ててこれに居住していたが同人の意思並に小屋の形態、構造、材料等から判断して一時的な仮小屋であつて永久的なものでないと考えたので、その小屋の建設部分を永久性のある住居の敷地即ち宅地とは認めず農地を一時的に利用したものとみて買収したものである。

尚(5)の土地は訴外植田愛太郎が祖父以来塵芥捨場としていたのを開墾して耕作していたもので、元西尾市松の所有地で、昭和五年洪水があつた後原告が自己の所有地として区分を明らかにしたけれども、その後も使用貸借により同人が耕作していて買収になつたが、同人は宗教の布教師で農地買受資格がなかつたから訴外森山好祐に売り渡したものであつて何等違法がないのであると述べた。(立証省略)

三、理  由

被告は本案前の抗弁として本訴は出訴期間を経過後に提起せられた抗告訴訟であるから不適法な訴であり、仮に確認の訴とすれば処分庁である被告は当事者適格がないと主張しているから、先ずこの点について判断をすることとする。

原告は本訴に於て原告主張の買収処分の取消を求めているが、その本旨は右買収処分を当然無効な処分であるとし、その無効であることの確認を取消という形式で求めているものであつて、本訴は行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる違法な処分の取消を求める訴ではないから同法第五条の出訴期間の制限を受けないものというべきである。

しかしながら他面本訴は結局当該行政処分の違法を攻撃して、その無効であることの確認を求める点に於て前記抗告訴訟と共通の性質を有するものであるから、右訴訟につき処分庁に形式的当事者能力を認める前記特例法第三条は本件の如き訴訟にも類推適用されるものと解し、当該処分庁である被告を当事者とすることができるものとすべきである。従つて被告の本案前の抗弁は採用しない。

(一)  原告は原告主張の(1)乃至(4)の各土地は農地でなく宅地であるのにこれを農地として買収したのは無効であると主張しているから次にこの点の判断をすることとする。

証人森山好祐及び細川兼繁の各証言と原告本人訊問の結果並に本件各土地検証の結果を併せて考えると原告主張の(1)乃至(4)の各土地は昭和二年頃から原告が所有していて、訴外森山好祐が元原告の使用人であつた関係で昭和五年頃から使用貸借によりこれを原告から借り受け、各土地間に境界のない一団の畑地として塵芥を腐らせた堆肥等を施して引続き耕作していたが、原告が昭和十五年頃右土地上の原告主張の場所に原告主張の如き各工場及び住宅を建築して、これを原告の長男健次外数名に賃貸し、賃借人等が右住宅に居住して右工場でロープの製造をするようになつたので訴外森山好祐はやむなくその後は右工場及び住宅の敷地以外の右土地の東側、南側及び西側で右土地総面積の二分の一余りの畑地を引続き耕作していた。ところが右工場及び住宅は昭和十七年頃に火災で全焼しその後原告は建物を再建する様子もなく、又右建物建築前は原告から進んで本件土地の使用を許していた経緯もあつたので同人は原告と改めて右焼跡の使用に関する契約をすることなくこれを再び開墾して耕作していたもので、本件買収当時右各土地の現状は東側の原告主張の(1)の土地の部分に木造トタン葺バラツク建の小さな小屋と納屋があつて、同人が右小屋に居住して納屋は農耕用に使用して居り、右敷地部分と工場等の焼跡の部分以外はほとんど完全な畑地であつて、焼跡も大きな瓦や基礎石のようなものは取除かれて開墾せられており、瓦の破片とか、建物基礎のコンクリート、モーター台等の部分的に残存しているが、野菜が繁茂しているときは容易に判らない程度で、各地上には野菜類が栽培されていた状態であつたので、吹田市吹田地区農地委員会は訴外森山好祐が資金ができ次第他に住宅を建築するといつていた事実をも参照して右各土地全体を同人が使用貸借により借り受け耕作している農地と認定し、自作農創設特別措置法第六条により買収計画を樹て、被告は右計画に従い買収したものである事実を認めることができる。

しかるにおよそ形式的に存在している行政処分はたといそれが違法な処分であつても、その違法が重大且明白なものでない限り瑕疵ある行政処分として取り消されることあるは格別それが当然無効な処分ということができない。しかるに自作農創設特別措置法にいわゆる農地とは直接に耕作の目的に供されている土地のことであり、当該土地が農地であるかどうかということは結局その土地の現状によつて判定すべき事柄であるが、このことたるやたやすいことではないのであつて、殊に前記認定の如く建物敷地の焼跡等を開墾して農作物をつくつているような場合は最も認定の困難な部類に属するから、その際仮に認定を誤り非農地を農地と認定したとしても、これを以て明白な過誤と断ずることは許されないところである。しからば右買収処分に際し被告が前記土地を農地と認定したことが仮に原告主張の如く誤りであつたとしても、前記認定の状況の下に於てはその違法を以て明白なものということができないから、右買収処分は瑕疵ある処分として取り消され得るに過ぎずこれを以て当然無効の行政処分と断ずることができない。右の如くこの点に関する原告の主張は失当である。

(二)  次に原告は原告主張の(5)の土地は訴外植田愛太郎が耕作しており、訴外森山好祐が耕作していなかつたのに同人の買受の申込に基いてこれを買収したのは無効であると主張しているが、およそ農地は自作農創設特別措置法第三条の要件を具備している限り何人が耕作者であつても政府は同法によりこれを買収することができるものであるところ、本件土地は原告が昭和二年八月他から買受けた後引続き訴外植田愛太郎が耕作使用しているとは原告の自ら主張するところであり、又証人細川兼繁の証言によると被告は吹田市吹田地区農地委員会が定めた買収計画に基いて不在地主が所有する小作地として本件土地を買収しこれを農業に精進する見込のある訴外森山好祐に売り渡すに至つたことが認められるから原告主張の事由を以ては右買収処分を違法と断ずることができない。(原告は右土地を耕作者でなかつた訴外森山好祐に売り渡したのが不服なのかも知れないが買収した農地を場合により耕作者以外の者に売り渡すことは同法の認めるところなのであるし、又仮に売渡が違法であつても買収処分の効力には何等の影響も与えないのである)。右の如く原告主張の事由を以ては右買収処分を無効と断ずることはできなく、右主張も採用することができない。

右の如く本件買収処分を無効とする原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却するべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決するものである。

(裁判官 乾久治 前田覚郎 岡部重信)

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